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フランチェスコ1世のストゥディオーロ

「五百人広間」の一角にある、窓のない倉庫のような一室。コジモ1世を継いだフランチェスコ(トスカーナ大公1574〜87)の「ストゥディオーロ(書斎)」と呼ばれる部屋で、装飾責任者はヴァザーリだった。
フランチェスコの性格はコジモとは正反対で、強権的政策をとらず、文化的・人文主義的君主であろうとした。父親が勧めた皇帝の妹との結婚を渋り、結婚後も人妻の「ヴェネツィア女」ビアンカ・カッペッロとの関係を続け、妃の死後ビアンカと結婚した。弟のフェルディナンド(トスカーナ大公1587〜1609)によって排除(暗殺)されたらしい。宗教改革期の枢機卿だったフェルディナンドがフランチェスコの非キリスト教的思想(秘教とくに錬金術)を嫌っていたともされている。
20世紀初めにウフィツィ美術館の倉庫から36枚の小型の油絵が見つかり、このストゥディオーロが復元された。装飾の構想を立てたボルギーニの手紙によって「自然と技術」の相関がテーマで四大元素の人工的合成によって万物がつくられるという錬金術の思想とその作業を表していることがわかる。
錬金術を含む工房作業を描くには、当時の政治的寓意画や教義的宗教画とは異なり、リアリズムが要求された。北方絵画(制作ではフランドル出身のジョヴァンニ・ストラダーノが活躍した)に近い16世紀のフィレンツェでのリアリズムの作例となった。一連の作品は、主題がすべて解明されてはいないが、末期マニエリスムのなかで質の高いものとされている。文化史上、異端とされる危険性をもちながら、神に代わる世界創世の秘密を探る、近代自然科学の世界像が示される以前の作品。16世紀、神秘主義が盛んになり、過去を学びそれを再構築するマニエリスムから、新しい(バロックの)宗教図像をつくり出すための過渡的な試みだったとされている。
ヴァザーリ 四大元素の間 1556〜59年
ストゥディオーロ 2 錬金術師の工房 羊毛加工
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