聖マルコが殉教した後、信者たちが遺体を焼却される前に救い出す場面。背後に薪の山が描かれ、異教徒たちを追い散らした突然の嵐の黒い雲と稲妻、その光で建物が浮かび上がっている。
以前はアレクサンドリアで殉教した聖人の遺体を、9世紀のヴェネツィア商人が盗み出し、船に運んでいる場面とされていた。修復で薪の山が現れたことで殉教直後とする説が裏付けられた。
背景はパラッツォ･ドゥカーレ（総督宮）とサン･マルコ図書館に挟まれたヴェネツィアの小広場を舞台背景のように描いている。見慣れたさまざまな祝祭の催しが行われる、現実の都市空間を描くことで臨場感を高めている。
ティントレットは、演劇の舞台背景の前に、俳優の動作による感情表現や照明効果などを採り入れて、絵画の中に架空のドラマを作り上げている。
聖マルコ同信会館大広間のために描かれた作品だったが、19世紀初め、他の場所の装飾に使われた際、左側が切り詰められてしまった。
参考画像　舞台背景・1720年のエッチング
1560年代

ティントレット　Tintoretto
聖マルコの遺体を焼却から救うアレクサンドリアの信者たち
1562〜64年　カンヴァス　油彩　398×315cm
ヴェネツィア　アカデミア美術館
世界美術大全集13　イタリア・ルネサンス3