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凸面鏡の自画像

ヴァザーリは、この自画像制作の経緯を「技巧の巧みさを試みようとして、ある日彼は、床屋の半球の凸面鏡に映った自分を見て、自画像を描き始めた。鏡の丸い表面に欄干のなげしが丸く映って見え、建物のすべての部分が歪んで奇妙な風に向こうに向かって小さくなっていくのを見て、なんとしてもそのカプリッチョ(気まぐれ)をそっくり描きたいと思ったからである」と伝えている。
フランドルでは凸面鏡に映る事物がよく描かれていたが、イタリアでは珍しく、画家の超絶技巧を示していると思われた。近くの手が大きく、離れた顔が小さく見える、極端な短縮法の視覚を歪ませる奇妙な効果も、驚異を美とする当時の人々に美しく思われた。
ヴァザーリは「マニエラ」の美学のキーワードを3つあげている。
カプリッチョ(気まぐれ、空想的、ファンタスティック)
ビザッロ(変わっている、珍しい)
スプレツァトゥーラ(さりげない優美、なにげない洗練)
この作品について、新プラトン主義者で秘教主義者の著作の一部「人間は円環のかたちのなかに世界を映す」から、円形の背景が大宇宙(マクロコスモス)を、人物が小宇宙(ミクロコスモス)を表しているとする説もある。
個人的にはコレッジョからの影響が大きかったと思われる。「パトモス島の福音書記者聖ヨハネの幻視(1520〜24年)」や実際の凸面鏡をみて、思いつきそれを描いて、自らの技量を表すものとして、コレッジョに対抗してローマへ向かった。ヴァザーリが「天使のようだった」と伝えるように、ローマで評判になり、パルミジャニーノ(パルマ出身の若い男)という名前も広まったと思われる。