ヴェロッキオ工房で制作されたフィレンツェ近郊のサン・サルヴィ修道院聖堂のための祭壇画。ヴェロッキオの規準作品とされているが、工房での共同制作の実態を示している作品。
全体の構図や主要人物のデッサンはヴェロッキオが行ったとされているが、実際に制作したのは複数の助手だった。
キリスト像は優れた助手によって丁寧に油彩で描かれ、15世紀イタリア絵画のなかで最も正確な自然主義的追及を示す人体造形の例ともされる。左端の天使はレオナルド･ダ･ヴィンチが描いたと伝えられ、キリストや背景の広い範囲のテンペラ画の部分にも油彩で加筆したとされている。ヴェロッキオが修得していなかった油彩による精緻な写実技法はフランドル絵画から学んだと思われる。
洗礼者聖ヨハネと右側の天使はさらに別の助手によって、粗い彫塑的フォルムで描かれている。画面上部の稚拙な神の手と聖霊の鳩はまた別の助手。 中景右側の岩壁や左の棕櫚の描き方にも稚拙さが見られる。
キリストと洗礼者聖ヨハネの人物表現にはオルサンミケーレ聖堂の「聖トマスの懐疑」と共通する要素があるとされる。
部分拡大画像　1470年代

ヴェロッキオ　Verrocchio
キリストの洗礼
1470〜74年頃　板　テンペラ　油彩　177×151cm
フィレンツェ　ウフィツィ美術館
世界美術大全集11　イタリア・ルネサンス1